2015年03月20日

終わりそうな命日へのせめてもの再録

命日に、少しでも、と思い昔書いた記事を再掲。今より文章は拙いけど、読んだ直後の熱には敵わないから。





伊藤計劃(いとうけいかく)。
ゼロ年代最高の日本SFと評される「虐殺器官」、小説というメディアの可能性を広げた「ハーモニー」の長編二編。幾つかの短編。鋭い映画評。その他web、パンフレットの様々な文章群。これが彼の作品全てである。2009年、デビューからたった二年で癌に倒れる。享年34歳だった。
そんな背景を抜きにしても、「虐殺器官」は読んで欲しい。SFファンとして、切にそう思った。
9.11後、世界はエスカレートするテロへの対策として高度な情報認証社会を完成、テロを駆逐する。「何時何処で誰が」、全ての行動が監視された、プライバシーの対価としての安全。しかしテロに代わって、周辺世界では紛争・虐殺が急増、、、そんな「現実」と地続きの近未来が舞台。アメリカ軍暗殺部隊を悩ますターゲット、ジョン・ポール。世界中を渡り歩く彼の訪れた先では必ず虐殺と混沌が起こるものの、表舞台には全く姿を現さない。それを追う「ウェット・ワーカー(暗殺者)」クラヴィス・シェパードはジョンの元恋人ルチアのいるチェコへ潜入するが、、、
あらすじを聞いてワクワクした人、「虐殺器官」はミリタリーSFの傑作です。読め。筋繊維内蔵で空力特性に優れた航空機「空飛ぶ海苔」、環境追従迷彩(攻殻機動隊バンザイ)、周辺の情報を副現実として映すコンタクトレンズ、、、クラシックから先鋭まで、近未来ガジェット満載。さらに小島「メタルギア」秀夫のバリバリのフォロアーである作者の描く「戦場」の息づかいの激しさに興奮すること間違いなし。
あらすじ聞いて「うーん、ジャパンSFで人名外人だし。どうせミリオタSFでしょ?」「SFつうのはさ、こう世界を構築してさ、、、」という人。もっと読め。僕らと同じ「現代」を生きる作者が、「この世界」を徹底的に見つめることで生み出した世界の圧倒的な存在感。宅配ピザと「プライベート・ライアン」、手作り核爆弾とAKー47で織りなす「戦争の世紀」という「システム」。ラストで明かされるシステムの全容、それに対する主人公の「選択」。最後のページを閉じたとき我々を取り巻くニュースが違って見えるような、そのくらいの「世界」を物語っている作品だ。
そして「そもそもSFってさ、、、もっと人間の内面とかをさ、、、」とかいう人。黙れ。そして読め。ついでにイーガンとかヴォネガットとか読め。SFが「人間」を語れないだ?大きな誤解だ。時代錯誤だ。これだけ科学に包囲された時代で、なぜ「サイエンス」に目を向けようとしないんだ?アイデンティティや倫理という、個人の内面に科学という「万人に眼に見える形」で挑む方法論。そんな「パーソナル」と「グローバル」を繋げうるのがSFなんだ。この小説も、きちんと「人間」に向き合っている。「戦争」で人間の「罪と罰」を描き出すなんてむしろクラシックだし、想像力を駆使して「世界の形」や「この先」を理解しようとすることが「物語る」という行為の原点だと思う。テクノロジーとイデオロギーの最前線である「戦場」の「未来」の「物語」。そのプリミティヴな魅力。つまり、真面目に人間を描こうとした一つの形としての、ミリタリーSFなんだこれは。
他にも、SFにとどまらない過去作へのオマージュ(=愛)、ユーモア、小説としての的確な構成と、本当に面白い。こういうものこそ読み継がれるべき物語だ。とにかく、みんな読むんだ。このゼロ年代最高といわれるSFを。ここにはSFの持つ可能性が全部ある。

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)
著者:伊藤計劃
販売元:早川書房
発売日:2010-02-10
おすすめ度:5.0
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posted by 淺越岳人 at 22:57| Comment(0) | TrackBack(0) | SF | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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